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【コラムNO.1】

高校バスケ王国・福岡の頂上決戦。
第一と大濠、それぞれの365日間。

投稿:2020/01/08

1月3日、ウインターカップ(WC)王者・福岡第一の体育館で開かれたOB会には豪華な顔ぶれがそろっていた。

 

 2016年優勝チームの中心、重冨周希・友希の「重冨ツインズ」に、前回大会を制したチームの主将・松崎裕樹の顔もある。

 

 ほんの5日前、福岡大大濠との「福岡決戦」を制し、最高の幕切れを迎えたばかりのチームを祝福ムードが包む。大会で鬼気迫る表情を見せていた高校ナンバーワンPG河村勇輝(3年)ら優勝メンバーも、OBとのゲームを楽しんだ。

 

前回覇者としてのプライドを示したこの1年、そして公式戦で8度も戦ったライバルとの濃密な1年を噛み締めながら。

 

 第一と大濠が決勝に進出したのは2001年以降で実に計14回を数える。そして今大会でついに決勝での福岡対決が実現。第一が75-68で大濠を破り、2連覇を飾った。

 

 県予選での対戦が「事実上の日本一決定戦」とも言われる王国・福岡。ただ、両校がたどったこの1年間の道のりは対照的だった。

大きい大濠に勝つため第一は……

初対決は2019年1月の県新人大会の地区予選。

「今年の大濠は大きいよね」

 第一の井手口孝監督は会場でアップを始めたライバルを見てつぶやいた。松崎が抜けた穴をどう埋めるか、大濠のエース横地聖真(3年、192cm)をどう止めるか、頭を悩ませていた。横地がボールを運びながら、得点も狙うのが大濠の戦法だった。

 新たに第一の先発に入った内尾聡理(3年)が彼を徹底マーク。河村と小川麻斗(同)が詰め寄ってフォローした。この守備が奏功し、88-74で第1ラウンドを制した。

 2月の県新人大会決勝では、第3ピリオドに13点をリードされながら「伝家の宝刀」オールコートプレスで流れを変え、67-63の辛勝。ただ井手口監督の不安は消えない。

「このままだと大濠にやられるぞ」

 そこから3月の全九州春季選手権までの約2カ月間、監督はマンツーマン守備をたたき込んだ。ボールを持たせないディナイディフェンス、素早いカバーなど、頻繁に練習を止めては説明し、反復させ、さらにコートを3往復する名物の「33秒走」で脚力を徹底的に鍛えた。

 井手口監督は第一のバスケット部創部とともに就任して25年目。指導はガムのくずを片付けるところから始まった。大濠の背中を追いかけ、「ボールを持たせない守備から速攻。これが第一のバスケ」と口酸っぱく伝えてきた。

 タレント揃いの大濠を止められれば、全国の強豪も止められる。その思いはこの年も変わらず、選手たちの成長を促していく。

 3月の全九州春季選手権では最大58点差をつけ、大濠に98-60の大勝。6月のインターハイ予選に向け力を誇示した。

「第一以外には負ける気がしない」

この大敗で自信を失ったのが大濠の横地だった。将来を見据え、得点も取れる大型ガードとしての成長を期待されていた。WC出場を逃した2018年11月から基礎を見つめ直し、体育館にドリブル練習の音が延々と響く日が約2カ月続いた。

 しかし、またも第一の守備を破れず。「パスを出せなかった。自分がガードをやっていいのかという思いがある。得点面でも対策を練られるなら、それを上回る技術を身に付けるために個人練習を増やさないと」。直後に控えていた関東遠征の「辞退」を申し出たほどだった。

 PG横地にこだわった片峯聡太監督もついにコンバートを決断。PGには成長著しい平松克樹(2年)を起用した。第一が苦手としていたゾーン守備も整備し、2-3システムの中心にエースを据えてインターハイ予選に臨んだ。

横地を中心としたゾーン守備は機能し、第一のミスを誘う。第2ピリオド途中で18点のリードを奪った。今度こそ勝てる――。そこに立ちはだかったのは第一の河村だった。

 連続得点とアシストで前半終了時点で7点差まで詰め寄られると、後半は大濠の足が止まり、71-78で屈した。その後、鹿児島で開催されたインターハイに福岡県代表として臨んだ第一は、北陸との決勝を48点差で勝利するなど、圧倒的な強さで大会を制することになる。

 本大会前、大濠はインターハイ出場校の練習試合の相手として何度か胸を貸していた。その試合に勝つたびに悔しさは増していく。

「第一以外には負ける気はしない」(西田公陽主将・3年)。

 大濠の体育館には第一のような冷房設備がない。蒸し風呂のようなコートをとにかく走り込んだ。

思いが詰まった横地の3点シュート。

すでに両校が出場を決めていた11月のWC福岡予選決勝は、大濠が途中27点のビハインドからオールコートプレスなどで盛り返すなど、拮抗した展開に。最終的には60-69で第一に屈したものの、「第一を走らせない」というテーマを1試合通して達成できたのは初めてだった。

 

 WC本戦に入ると、2回戦で難敵開志国際を倒して勢いづいたチームは、試合を重ねるごとに成長。第一の神田壮一郎(3年)が「全員が積極的で、泥臭さがこれまでと違った」と称した大濠もまた、王国の代表に相応しいチームとなっていた。

 

 決勝は横地の3点シュートで幕を閉じた。

 

 本大会前に控え組に回される屈辱も味わうなど、1年間苦しみ抜いた男は、大会を通して大濠の真のエースであることを証明した。最後のシュートを決める横地の目には、涙があふれていた。

 

 すでに勝負の行方は決まっていたが、それでも「最後はお前が決めろ」と託してくれた恩師や仲間に応えた。「1年生のときは我関せず、2年生ではわがまま」と評していた片峯監督も温かい眼差しを向ける。

 

 横地は大会後、恩師と「おかげさま」を合言葉にWCを戦ったと明かした。みんなが自分を生かしてくれていることに気付けた。「最後の最後に勝てばいい」。繰り返してきた言葉が叶うことはなかったが、その借りは次のステージで返すことになる。

最上級生が抜ける新年度は……。

才能あふれる最上級生が抜けた両校にとって、2020年は試練の年になるかもしれない。

 

 WC準決勝で第一を苦しめた東山や、報徳学園は司令塔、留学生ともに2年生。さらに八村2世こと山崎一渉(1年)を擁する明成も王座奪還を狙う。

 

 もちろん、第一と大濠も黙ってはいない。第一と大濠の新3年生には、大濠の平松を筆頭に中学時代に日本一に輝いた西福岡中のメンバーが散らばっている。今年度からU-16となった国体も福岡が制した。

 

第一は昨年同様、元日に練習をスタートさせた。

 

「バスケ王国福岡の覇権は日本一を意味する」

 

 その言葉を証明する戦いは休む間もなく始まっている。


【コラムNO.2】

高校生Bリーガー河村勇輝、

卒業の辞。

「バスケットをもっとメジャーに」

投稿:2020/03/24

高校卒業を前日に控えた2月29日、河村勇輝はチームメートたちと3年間汗を流した福岡第一高の体育館にいた。

 

 1月から特別指定選手としてB1リーグの三遠ネオフェニックスに所属しており、卒業式には出られないはずだった。

 

 だが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のためリーグ戦が中断され、高校側も体育館での卒業式を取りやめたことにより、急きょウインターカップ(WC)を制した3年生と新チームによる送別ゲームが実現。河村は負傷を避けるため、ヘッドコーチを任された。

 

「井手口(孝)先生から真剣勝負と言われていたんですけど、みんなの出場時間も考えながらやりました」

 

 仲間たちとはしゃいだ時間は格別だった。直後の卒部式で「お互い違う道に進んで、その場所で花を咲かせられるように頑張りたい。Bリーグやオリンピックに出てみなさんを招待できるようにします」と周囲に感謝の気持ちを伝え、高校生活を笑顔で締めくくった。

「身体能力はまねできないけれど」

高校入学当初は「いずれは教員や公務員になろうかな」と考えていた。しかし結果を出し続けるうちにその思いは変わっていく。

 

井手口監督の「一緒に日本一になろう」を合言葉に、夏場には多い日は1000本決めるまでシューティングを続けた。ステップバックやクイックリリースなどテーマを決めながら黙々と打ち続ける姿は、恩師が「お金を払ってでも見る価値がある」と称えたほどだ。

 

 2年冬にWCを制すると、3年夏にはアメリカでワークアウトも経験。本場の同世代のガードと接して身体能力の違いを見せつけられた。ハンドリング、ドリブルの力強さも彼らに比べて劣っていると感じさせられた。

 

「身体能力はまねできないけれど、それがない中でのスピードの生かし方や、テクニックで通用することを示したい」

富樫さんのように日本を背負って。

やがて、プロ入りを明確に口にするようになっていた。

 

 そして、昨年11月のWC福岡県予選決勝では、福岡大大濠高を倒した直後、観客を前に「富樫勇樹さん(千葉ジェッツ)のように、体は小さくても日本を背負って世界と戦っていけるようになりたい」と宣言。理想は「試合を支配できる選手」だ。出場する試合を自在にコントロールする「日本一のPG」になった先にはNBAも見据える。

 

 今年1月から挑戦したB1での活躍ぶりは衝撃的だ。

 

デビュー戦となった1月25日の千葉戦で、自分のプレーが通用する確信を得た。同じく千葉との2戦目ではその富樫勇樹とマッチアップし、いきなり21点。3戦目の新潟戦も元日本代表の五十嵐圭から「狙って」4点プレーを決めてみせた。リーグ中断前の3月15日時点で、1試合平均12.6得点、3P成功率は37.3%。トランジションと3P、粘り強い守備は、日本のトップカテゴリーでも十分通用することを証明した。

ラマスHCも代表入りの可能性を示唆。

もっとも、河村を3年間見守ってきた監督に驚きはなかった。

 

「3年夏の時点でB1でも通用すると思っていた。実際、(B1の試合で)河村の速攻についていけていない場面が目立っていたほどだからね。仲間のことを考えすぎず、自分のプレーをすればいいと伝えましたよ。もっとやれる。プロは出場時間をシェアするようだけど、長い時間出してほしい」

 

 また井手口監督と親交が深く、女子日本代表元HCで浜松・東三河フェニックス(現三遠)のHCも務めた中村和雄氏は「東京五輪代表に選ばれるべき」と若い才能への期待を隠さない。日本代表のフリオ・ラマスHCも代表入りの可能性を示唆している。

 

 近い将来の代表入りについて、井手口監督の見立てはより現実的だ。

 

「いまの大学やB1はハーフコートオフェンス主体のチームが多い。セットオフェンス中心なら、あの身長は厳しかったかもしれない。でも日本代表が世界に対抗するにはトランジションと3Pが欠かせないはず。そのスタイルを確立する上で河村のスピードを使わない手はない。女子代表には『これがジャパンだ』というものがある。男子も世界をうならせるものがないと」

チームを勝たせる正PGにならないと。

そしてこう続ける。

 

「河村には運がある。世代別の代表に入って、高校日本一になり、B1も経験して東海大に進む。B1入りに関しては、これまではなかったこと。過去の教え子に私が『卒業のお土産』として渡せなかったということもあるけど、どれも自分の努力でつかんだもの。どこにもマイナスイメージがなく、関わったすべての人の利になる存在なんだ」

 

 B1でプレーするようになりメディア露出も増したが、父・吉一さんから「スターじゃないんだよ。いち高校生なんだよ」と諭され、自身もその振る舞いに気を配る。日本代表入りの可能性についても冷静に受け止めている。

 

「チャンスをもらえるようにアピールはしていきますけど、まだまだ。B1を経験して、日本を背負える実力が今はないと感じた。代表入りするからには正PGとしてチームを勝たせる選手になってからでないと」

「自分を通じて興味を持って」

輝かしい実績を残した高校3年間はもう過去となった。4月から大学バスケット界屈指の強豪・東海大に進学する。B1クラブ以上とも言われる恵まれた環境で、課題ととらえているフィジカル強化に取り組む。彼を突き動かすのは「バスケットをもっとメジャーにしたい」という強い使命感だ。

 

 昨年9月のワールドカップは5戦全敗で32チーム中31位に終わった。八村塁がNBAのワシントン・ウィザーズに入団して活躍するが、「野球やサッカーに及ばない。バスケットを知らない人も自分を通じて興味を持ってもらえたら。日本代表が強くなれば発展していく」。

 

 高校3年時の大会プロフィールには身長172cmとある。167cmの富樫からは会うたびに「身長、盛っているでしょ」と茶化されるという。ただ、「小さい選手が活躍した方がインパクトを残せる」と、どこまでも前向きだ。18歳の小さな背中は、日本バスケット界の未来を背負うべく、日に日に大きく逞しくなっている。